Office Ton Pan Lar

Consideration of International Affairs by Office Ton Pan Lar

はなからASEANには期待していません

2021年4月17日 日経新聞ASEAN、対ミャンマー辛抱強く。シンガポール元外務次官 ビラハリ・カウシカン氏」に関し

 

はなからASEANには期待していません、と言いたい。

 

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Bilahari Kausikan シンガポール外務省に入省、国連大使など歴任、2010~13年外務次官。シンガポール国立大学中東研究所所長。

 

カンボジアでは1982年、親ベトナム政権に反対する民主カンボジア連合(3派連合)が樹立され、内戦が激化した。(カンボジアは未加盟だったが)東南アジア諸国連合ASEAN)は当時、3派のうち親中国のポルポト派以外を支援するように、米国のレーガン政権に働きかけた。超大国の後ろ盾が必要だったからだ。

ASEANは、73年のベトナムからの米軍撤退が、同国政府関係者に与えた衝撃を過小評価していた。米国務省側の答えは決まって「ASEANにならう」というものだった。今回のミャンマー問題を巡るASEANの対応を見て、こうした出来事を思い出した。

ミャンマー国軍が2月にクーデターを起こすと、ASEAN議長国のブルネイはすぐさま、対話を通じて正常な状態に戻るよう促す声明を出した。ASEANは3月に非公式の外相特別会議を開き、ブルネイはすべての当事者に暴力の自制を求める議長声明を出した。(ASEANの大国の)インドネシアもルトノ外相が、ミャンマー国軍が外相に任命したワナ・マウン・ルウィン氏と会談するなど積極的に動く。

4月中にもASEAN首脳会議が開かれる予定だ。実際に首脳会談が開かれれば、期待が高いだけに「何も達成できなかった」との意見も多く出るだろう。意見は、的外れにはならないかもしれないが、重要とも言えない。

1980年代のカンボジアと、2020年代ミャンマーでは状況が大きく異なるだろう。だが、米国務省は40年ほど前にすでに察知していた。ASEANは、域内外の多国間協力について「中心性」を保とうとしている。ASEANは、外交関係で主導的な役割を担おうとしているので、ASEAN域内で起きたことの責任を問われる。(かつて米国務省が「ASEANにならう」と答えたように)他国にとっては責任を転嫁できるし、行動をとらない都合のよい口実にすることもできるだろう。

米国も中国も他に優先事項があり、ミャンマー問題を巡り、それぞれが相手をうかつに利するような行動は取りたくないはずだ。両国とASEAN側は外相会談などを通じ協議しているようだが、ミャンマー問題に影響を及ぼせるような具体策はあまりないだろう。

ASEAN各国の情勢に目を向けても、タイはクーデターを経て民政に復帰したとはいえ、残念ながら最後の政変になるとは誰にも言えない。タイとミャンマーは長い国境で接する。ベトナムラオス社会主義体制で、(カンボジアやタイとともに)域内の内政不干渉を重視している。

とはいえ、ASEANがかたちだけだとしても関与を続ければ、域外の国は「ASEANにならう」ことができる。ミャンマー軍は、少なくとも「民政復帰」を難しくするような行動を起こさなくても済む。他国が責任を転嫁できたり、口実にできたりするような活動も、正当な外交手段だ。

もちろんリスクを伴うため、ASEANは微妙なバランスを維持する必要はある。首脳会議はASEANの信頼性を維持し、今後の実質的な役割も残すという戦略の一環でなくてはならない。ミャンマー軍が、(「民政復帰」に向け)はしごを降りようとするタイミングをとらえられるかどうかがカギになる。ASEANも、世界も、ミャンマー問題が具体的に解決するタイミングに向け、辛抱強く時間を稼ぐしかなさそうだ。